第二話「人間」
Side.Yasohati
「はっ!?…………あれ、ここは」
「お、気が付いたか」
暗闇の海中から飛び上がるようにがばりと起き上がる。
……息を整えると、病室らしき部屋だった。どうやら気を失っていたらしく…でも、まるで意識を失っている間の感覚が切り取られているかのように、ほんの少しの間しか眠っていないように感じた。
ミドリさん……だったか、その人がこちらをじっと見つめている。
「……僕、気を失ったんでしたっけ」
「ん、そーそー。もう朝だぞ?」
「ご、ごめんなさい……ずっと見ててもらって」
「いいんだぜー、俺も眠れなかったし」
ぱぁっ、とした明るい笑顔で僕をなだめるミドリさん。
……それは良いのだが、出口の近くでこちらを見ている短い黒髪で赤目の少女と同じく赤目でとても長い白髪の男性は誰だろうか。
じぃ……と見つめると、何やら黒髪の少女が怪訝な顔をする。
「…ヤソハチ?さっきから『何も無い所』を見てるが、お前お化けでも見えるのか」
「え……えっ?」
何も無い所……?まさか、そんなはずはない。
だってどう見ても人がいる。それなのに何も無いとは、一体。
「だって、あそこに人が……」
「……お前、疲れてるんじゃないのか…?」
うん……何度見ても、人が二人立っている。
それなのにミドリさんは何も見えていないみたいに、「疲れてるなら寝とけ」と僕を寝かせようとする。
……そんなこんなしていると何やら二人組が近寄ってきて、
「…オマエ、オレらが見えてンだよな?」
「え?…はい」
黒髪の少女が顔をしかめながらそう聞くと、何故かミドリさんが「ちょっ」と声を漏らした。
それに続いて白髪の男性は、僕にこう言う。
「……そこの男が無礼を働いてしまい、申し訳なく思う。
私の名はDunkelheit…呼び辛ければ、ハイト・エイデン、と」
「……これオレも名乗らなきゃいけねェ?」
「無論」
「………鈴科フブキ。だ」
次々と名乗られたが……状況が掴めない。
そこの男っていうのはミドリさんの事だろうが……ミドリさんも関わっているのか?でもさっき、何も見えないと…
とにかく名前を名乗っておこう、名乗らないのは失礼だし。
「九十九ヤソハチ……です」
「嗚呼」
……やり取りを終えると、ずっとわなわなと震えていたミドリさんがくわっ!!と表情を変えて叫び出した。
「お前ら!!何余計な事してくれてるんだぜ!?」
「ひえっ!?」
「何と言っても」
「……なァ?」
……やたらと息ぴったりなハイトさんとフブキさんだが、二人は僕の視線を気にせず続けた。
「神機の精神体ってバラすつもりなのかよ!?」
「今貴様が明らかにしただろう。
……彼が『見えている』のなら、下手に嘘をついて話を難解にするより最初からきちんと説明すべきだと思うが」
「……まァ『こちら側』に関わらせたくねェってのは分からなくもねェケド。
にしても、今までオレらが見える人間なンていたか?ミドリは見えるにしても、オレらを認識したのはコイツが初めてだ。……コイツ、どこかの施設の回し者なンじゃねェの?」
何……?神機の精神体?
確か、神機っていうのは神機使い……ゴッドイーターが扱う武器、だったはず。
意識があるなんて聞いた事ないし……それに、精神…体?
「……今、僕ってお化けを見てるんですか!?」
「お化けじゃねェ!神機の精神体だ!!」
「落ち着け、フブキ」
物凄い剣幕で怒鳴られた。…とにかく謝った。
「……でもまぁ、本来人には見えない存在って意味ならお化けかもな」
「人には見えない……?そんな存在なら、どうして僕は見えるんですか?」
「オレが聞きてェンだけど」
「貴様は少し冷静になる事を覚えた方が良い」
何かとフブキさんに食ってかかられる……僕が何かしたのだろうか……?ハイトさんが止めてくれるから助かるのだが…。
……でも、本来人には見えない……なのに僕には見える、か。今まで「普通」としか思われなかったし自分でもそう思ってたから、少し嬉しいかもしれない。
「……シオンと話した時もこの二人がいたんだが、知ってたか?」
「シオン……?あの薄橙の髪の人ですか?」
「そそ」
「……いや、お二人方が見えたのは今が初めてです」
そう答えると、何やらむむむ……と考え込み始めたミドリさん。
それに助言するかのように、ハイトさんはこう言った。
「……貴様とシオンが同時に触れたのがきっかけでは?」
「えぇ?そんな事あるのか……?」
「それしか考えられまい。貴様が触れていた時にシオンが彼の腕に触れて失神したのだ、それに他に思い当たる事も無いだろう」
何やら難しい話をしているが、何か大事な事を忘れているような……。
……思い出した!!
「今日訓練があるんだった!!」
「うわっびっくりしたぁ!?
……あ、それなら大丈夫だぞ。体調が悪いみたいだから明日にしてくれって言ってあるし」
な、なんだ……そうだったのか。驚いて損した。
……じゃあ、今日どうしようかな…
「用がないなら、今日はアナグラを見て回るといい。
設備を覚えれば移動もスムーズになるだろう」
「あ……じゃあ、そうします」
ハイトさんがそう言ったので、僕はそれに従う事にした────
続く